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英文契約の作成 リーガルチェック/審査・修正、翻訳の専門 寺村総合法務事務所

代表:寺村 淳(東京大学法学部卒、日本製鉄17年勤務)
Email: legal(at)eibun-keiyaku.net

英文ソフトウェア・ライセンス契約−5(英文契約類型別解説)Software License

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3.ソフトウェア・ライセンス契約(サブライセンス権付き)の構成とポイント−5

  • 宣伝条項(Advertisement)

    ライセンサーとしてはライセンシーにどんどん宣伝してもらって、本ソフトウェアの販売拡大、ロイヤルティ収入の増大を目指したいわけです。

    その宣伝広告の費用は、ライセンシーが負担することが普通でしょう。

    ただ、ライセンサーが本ソフトウェアの他国版のカタログを提供したり、価格表やサービスレベル(保守の範囲)に関するカタログをライセンシーに提供することもあると思います。その場合費用負担者を明確化しておくことが必要です。

    また、ライセンシーの広告宣伝の「やり方」「態様」といったものについて、ライセンサーがどこまで口を挟めるか、についても議論の余地があります。

    ライセンサーは、自社のイメージを損なってほしくないため、ライセンシーの作成するすべてのカタログ、パンフ、ウェブサイトなどに、事前承認や事後承認プラス改変要求権を求めてくることが多くみられます。

    単に、「ライセンサーの良い価値あるイメージを損なう態様で広告宣伝を行わないよう努める」という訓示規定にとどめるか、あるいは、ライセンサーの事前承諾、果ては差止権や事後監査権までをも認めるのか、交渉力がものをいうところです。


  • 商標条項(Trademarks)

    前条の宣伝条項に深く関係する条項ですが、ライセンシーが本ソフトウェアに関する宣伝広告を行う場合に、パンフレット等にライセンサーの商標、ロゴ、ライセンサーの名称を使用することを義務付けるかどうか、という規定です。

    ライセンサーの作成したソフトウェアをあまり変更せずに再使用許諾していく場合と、ライセンシーがローカライズして販売していく場合、あるいはネット上のASPとして提供していく場合、などなどの形態の違いもあり、ライセンサーの商標等の使用を認めない場合、逆に積極的な使用を義務付ける場合、などがあります。

    名称を付すことは自社名称の普及に役立ちますが、ライセンシーの信用力や能力、商売の成り行きによっては、自社イメージを逆に損なう可能性もあります。
    その点を見極めたうえで、例えばパンフレット等への掲載は事前承認制にする、とか、何時でも差止ができる旨を規定したりして、ライセンサーの信用の保護を図る規定がおかれることが多いと思われます。


  • 秘密保持条項(Non-Disclosure)

    守秘義務に関する条項です。

    ソフトウェア・ライセンス契約は、継続的関係を規律する契約であると共に、非常に各当事者の内部ノウハウの開示がなされやすい形態の契約だと言えるでしょう。
    複製/改変をして再使用許諾をするという場合に、複製/改変するために、ライセンサーの技術情報やオブジェクトコード又はソースコード情報などを必要とする場合がほとんどでしょう。
    そのようなライセンサーの秘密情報は、ライセンサーの企業としての生命線である場合も多いことから、非常にシビアな守秘義務がライセンシーに課せられる場合もあります。

    その上で、開示範囲(秘密情報の定義)と、例外条項の範囲、守秘期間を定めていくことになります。

    例外についてですが、独自開発の部分をどの程度認めるかについてなども重要で、前述の知的財産権の帰属の問題と同様、その証明が問題となります。

    例外に関して、もうひとつ、裁判所・官公署からの法に基づく開示要求の場合について問題があります。

    官公署からの開示要求の場合、情報そのものが公知になっているわけではありません。
    官公署等の命令があったからといって、開示される情報の秘密性は何ら失われておらず、法に従いつつも、できるだけその開示範囲を狭めることが情報の開示者の利益となります。

    従って、その開示範囲を最小限にするために、事前通知義務を相手方に課し、情報開示を避けるための手段があれば取れるようにすること、あるいはインカメラ手続き(裁判手続きの中で公開せず裁判官だけに証拠を開示する方式)などを最大限に利用する義務などを課すことが必要となります。

    期間については、前記の通り、ソフトウェアに関する情報はノウハウであり厳格に秘密に保持されることが要求されますが、その半面、速やかに「陳腐化」する情報であるとも言われており、契約終了後3年間だけ義務を負う、という短期の義務消滅を定める場合も多いようです。

    もう一つのポイントは、再使用許諾権付きである場合に、再使用許諾を行うリセラーに対して、ライセンシーが開示できる情報の範囲についての定めでしょう。

    なかなか難しいところがあり、結局ライセンシーに一切の責めを負わせることになってしまうことが多いと思いますが、情報を本当にリセラーに出す必要があるのかなども点検してみることも肝要でしょう。

    さらに、ライセンス契約が終了した場合の措置について、しっかり考えておくことが必要です。
    ライセンス契約が何らかの事情で解除または終了してしまった場合でも、本ソフトウェアを使用しているエンドユーザーは残るわけですから、そのひとたちの権利がどうなるか、という問題があります。
    秘密情報に関して言えば、契約終了後においても、エンドユーザーの保守サポートをする関係上必要となる最小限の技術情報の保有、使用というものは、ライセンシーに認められるべきものです。
    ただ、契約解消後のエンドユーザーサポートをライセンサーないし他の会社が引き継ぐという場合は別です。


  • エスクロウ条項(Escrow)

    秘密保持に関連して、エスクロウ条項を設ける場合も多くなっています。

    エスクロウとは、プログラムのソースコードなどの秘密情報について、エスクロウ・エージェントに預けておき、ライセンサーが破産したり問題が発生した場合、ライセンシーがそのエージェントからソースコードなどを引きだして使用することが可能となる、そういう仕組みです。

    ライセンサーがソースコードの引渡しを望まない場合において、ライセンサーが倒産してしまうと、ライセンシーの本ソフトウェアにかかる事業は、ライセンサーからのサポートやバージョンアップ等が受けられず、必然的に消滅してしまわざるを得ません。

    でも、エスクロウ・エージェントにソースコードが保管されていれば、ライセンシーはそれを引きだし、そのサポートやバージョンアップ等を行いうる可能性が残ることになります。

    日本ではまだあまりエスクロウ・エージェントは数社しかないようですが、外国では多数のエージェントが活動しています。
    費用はそれなりにかかりますが、大切な事業を継続させるためにどうしても必要ということであれば、利用してみるのも一考です。





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