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完全条項(Entire Agreement)の必要性−英文契約条項例【寺村総合法務事務所】

代表:寺村 淳(東京大学法学部卒、日本製鉄17年勤務)
Email: legal(at)eibun-keiyaku.net

 

完全条項(Entire Agreement)−英文契約条項例解説-4Entire Agreement

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完全条項 (Entire Agreement)


完全条項「Entire Agreement」とは、「最終性条項」と呼ぶこともありますが、英米法上の「Parol Evidence Rule(パロール・エヴィデンス・ルール=口頭証拠排除原則)」を確認するためのものであり、それを具体化するものです。

内容は、要するに、契約書面に書かれていない内容に効力を認めず、契約締結以後においても契約の修正は書面によらなければならない、ということです。

具体的な条項は次のようなものが一般的です。

1. This Agreement sets forth the entire understanding and agreement between the parties as to the matters covered herein, and supersedes and replace any prior undertaking, statement of intent or memorandum of understanding, in each case, written or oral.
2. This Agreement may not be amended or modified except by an instrument in writing signed by each of the parties and expressly referring to this Agreement.

{1. 本契約は、本契約で取り扱われた事項に関する当事者間のすべての了解と合意を規定するものであり。書面であろうと口頭であろうと、従前の一切の了解、意図の表明、覚書に優先し、それらに取って代わるものである。
2. 本契約は、各当事者によって署名され本契約に明確に言及する証書による場合を除き、修正又は変更することができない。}

では、なぜこのような条項が必要か、といいますと、大雑把にいいますが、

  「契約書」は「契約」が成立したことを立証するための証拠に過ぎないこと

が大元の原因なわけです。

つまり、契約書を作成したから「当然に」契約書に書いたことだけが契約の内容になるのではなく、契約書外に何か合意が存在しそれを立証することができたならば、契約書以外の契約上の義務や権利、契約条件などを裁判で認定することも、本来は許されているわけです。

しかし、このような契約書外の条件を認定することは、契約書を作成した当事者にとって、予測可能性を奪う結果となります。

そこで、英米法では上記の「Parol Evidence Rule」(=口頭証拠排除原則)という原則を一般的に適用し、契約が書面になっている場合は、当該契約に関する条件はすべて書面で規定しなければならないこととしたわけです。

このようなルールは、日本にはありません。あくまでも契約書は、契約の成立を証する証拠の一つに過ぎません。

ですから、この「完全条項」が契約書に記載されていない場合に、当事者間でEメールのやり取りなどがあり、その中で、例えば「契約書にはXXXと書いてあるけれど、ここはYYYという意味ですね」というような確認があり、相手方も「その通り」と返信しているような場合、契約書のXXXという記載があってもYYYという意味に解釈される可能性が全くないとは言えなくなってしまいます。

とすると、この完全条項は、英米法の原則の確認ですから、逆に言うと、英米法系以外の法系、つまり大陸法系の当事者がいる契約書においては、必ず書いておくべき事のように思われます。
そしてそれは、日本企業間の日本語の契約においても同様に当てはまるわけです。

最近の日本のシステム開発契約などでは、この完全条項を定めることが多くなりました。 これは、JISA(情報サービス産業協会)が出しているシステム開発のモデル契約で完全条項が入れられていることに起因しているものと思われます。
その2008年版では、まず第3条第2項で、

「第3条第2項(前段略〜個別契約が基本契約に優先すべきことが書かれている) (以下後段)...また、本契約及び個別契約が当該個別業務の取引に関する合意事項のすべてであり、係る合意事項の変更は、第35条(本契約及び個別契約内容の変更)に従ってのみ行うことができるものとする。」

それを受けて第35条で

「第35条 本契約の内容の一部変更は、当該変更内容につき事前に甲乙協議の上、別途、変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。」

と定められています。

完全合意に関しては、日本企業間においても問題となりうること、
そして、現実に、JISAが作成している国内システム開発契約のモデル契約では、その趣旨が取り入れられていること、
などからもおわかりのように、この完全条項は、予測可能性の担保という観点から、あらゆる国内契約においても、積極的に取り入れていくべきものだと考えています。




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