3.販売代理店契約の構成と契約条項のポイント 5
- 権利義務譲渡禁止条項(No-Assignment)
契約外の第三者を契約関係の中に持ち込まれることを防ぐために、契約、債権の譲渡あるいは債務の引き受けを禁止する条項です。
なお、法律上、債権譲渡は原則として自由とされていますので、本条項がないと債権譲渡について文句は言えません。しかし、債務の移転を伴う債務引受や契約上の地位の譲渡については債権者の同意が必要とされていますので、契約上の特則がなくてもそれらは禁止されることになります。
特に、販売店が勝手に契約上の地位や債権・債務を譲渡・移転してしまうと、供給者の信用にかかわる問題となりますので、原則禁止されることが多いと思います。
なお、近い将来合併や営業譲渡などが予定されている場合は、あらかじめそれにかかる契約上の地位の譲渡が相手方の承諾なく実施できる旨、契約に織り込んで置く場合もあります。
供給者については、力関係および影響の低さから、債権譲渡は禁止されないことが多いと思われます。
- 通知条項(Notice)
国際契約の場合に特に規定されることが多い条項で、通知の方法を内容証明郵便に限定したり、ファックスの場合は同じ内容の郵便を出す必要があるとしたり、あるいは最近ではEメールのやり取りで十分だとする場合もあります。
- 準拠法条項(Governing Law)
契約関係から生じた問題、解釈の相違等についてどの国(州)の法律(実体法)に基づいて解釈、判断するかを定めた規定です。
国内取引ではまず問題になりません。
なお、準拠法の問題と次の仲裁条項(あるいは裁判管轄)の問題とは切り離して考える必要があります。
すなわち、準拠法を日本法としたとしても、仲裁地あるいは裁判地をインドのムンバイとすることも理論的には可能です。
日本と欧州の企業間取引において、仲裁地を両者の中間の第三国としながら準拠法をどちらかの当事者国の法律とする場合もよく見受けられます。
- 仲裁条項(Arbitration)
この契約に関して紛争が生じた場合に、仲裁手続きによって解決することを規定するもので、この規定があると他の手続きを取ることは原則としてできなくなります。
仲裁は、裁判という国家ではなく仲裁機関という私的機関に判断を委ねるもので、上訴がなく、専門的な判断を下してもらうことができるというメリットがあります。費用的には、仲裁人の報酬を負担する必要がありそれほど安いわけではありません。
裁判にはない大きなメリットとしては、仲裁人の判断は、各国が締結している仲裁条約に基づき各国で尊重されなければならない、とされていることです。つまり、仲裁人の判断は各国において強制執行が可能だということになります。
(裁判による判決は国家作用であり、日本の判決を中国など執行するのは難しい場合があります。)
- 合意管轄条項(Jurisdiction)
上記の仲裁ではなく、通常の裁判によって紛争解決をする場合に、裁判所を当事者の合意で指定する規定です。
合意管轄には、専属的合意管轄と、付加的合意管轄とがあります。
専属的合意管轄の場合、他の裁判所に法律上管轄権があったとしても、専属合意管轄と指定された裁判所のみが管轄権を有することになります(ただし例外があります)。
付加的合意管轄の場合、法律上の管轄裁判所に加えて合意された裁判所も管轄権を持つことになります。
合意管轄は、日本の場合、第1審のみ認められていますので、控訴・上告裁判所までを合意することはできません。
- 権利非放棄条項(No-Waiver)
一方当事者がある権利の行使を怠ったからといって、当該権利を放棄したものではない、また、ある権利を放棄したからといって他の条項まで放棄したと見なされない、ということを規定するものです。
例えば、プラスティックの箱に入れて納入すべきとされていたところを、供給者が紙に入れて納入してきたような場合、販売店が1回だけそれを承諾したとしても、2回目以降も承諾する義務を負うようになるのではなく、あくまでもプラスティック入りの納入を求める権利を失わない、という意味です。
- 分離可能性条項(Severability)
契約中のある条項が無効と裁判所等によって判断されたとしても、他の条項に影響を及ぼすものではない旨の規定です。
同時に、無効とされる場合でも、できるだけ有効となる部分が多くなるような解釈をすべきという原則まで規定する場合もあります。
- 完全合意条項(Entire Agreement)
本契約に関する事項については、本契約に定められた内容がすべてであり、従前の契約書、仮契約書、合意書、覚書、議事録等のすべてに優先し、それらの従前のものを無効とするとする規定です。
契約書は、契約の成立を立証する証拠の一つにすぎません。
契約が契約書という書面で為されたからといって、口頭の合意やEメールや議事録などの記載が当然無効となるわけではなく、契約内容に関する証拠として裁判で提出される可能性があります。
この完全合意があれば、不意打ち的に出される議事録やEメール等の効力を排除することができ、予測可能性を高めることになります。
なお、契約締結後の修正等についても、書面で為されるべきことをも規定することが必要です。
- 誠実協議条項(Consultation)
疑義が生じた場合に協議のうえ解決することを規定するものです。
紛争について裁判や仲裁の定めがあるため、この条項が実際に法的に意味を持つかどうかは怪しいようですが、日本の契約では書くことが通常です。