3.ソフトウェア・ライセンス契約(サブライセンス権付き)の構成とポイント−4
- 競合禁止条項(Non-Competition)
特に独占的なライセンス契約の場合に、ライセンシーが競合品を取り扱うことを制限することが多く行われます。
その理由は、ライセンシーが独占権を有している以上、ライセンサーは、ライセンス許諾地域内で他に販売店や代理店を起用することができません。
従って、ライセンサーとしては、ライセンシーが一所懸命売ってくれないと困るわけです。
ところが、ライセンシーが競合品を担いでいると、当該地域においてその立場を強化することが出来ず、売上も伸びません。
このようなことから、独占的な契約の場合には競合禁止を課すことが多くなるわけです。
なお、この場合、Minimum Royalty(最低ロイヤルティ)の定めを置き、別の観点から、ライセンシーが最大限の努力を当該ソフトウェア製品の販売拡大に傾注することを、契約上担保しておく場合も多くみられます。
- 知的財産権条項(Intellectual Property Rights)
本契約に定められた使用権や複製権等の権利を除き、ライセンサーの保有する本ソフトウェアやプログラム、関連書類に関する著作権や特許権、商標権、営業秘密などの知的財産権は、本契約締結後もライセンサーに留まる旨の規定です。
ライセンス契約でまず問題になるのは、本ソフトウェアをその地域の言語等に対応できるように改変したりローカライズしたりした場合に、当該改変版/ローカライズ版のプログラムや関連書類の著作権を誰に帰属させるか、という点です。
著作権や発明といった知的財産権は法の原則から言うとそれを創作した人や会社に原始的に帰属することになるわけですが、情報を提供したライセンサーとしては、これを自らのものとしておかないと、後日、自らの足かせになる可能性があります。また、ライセンシーが複数人いる場合にも、統一のとれたライセンシング政策を取りにくくなります。
従って、通常は、ライセンサーの提供する情報に基づいてライセンシーが創作した知的財産権はすべてライセンサーに帰属すると規定されます。
ここで、ライセンシーとしては、ライセンサーの情報を用いずに「独自に開発したもの」については、自らの権利とすることが考えられますが、ライセンサーもライセンシーも共に独自開発の「証明」ないし「反対証明」をどのように確保できるかが実務上のポイントとなるでしょう。
ライセンシーとして契約上に「独自開発物はライセンシーの権利」と規定することに成功したからといって単純に喜んでばかりはいられません。どうやって独自開発したのか、きちんとした立証対策を立てておくことが必要となります。
- 改良条項(Improvement)
改良条項とは、ライセンサーが契約期間中に本ソフトウェアに関連した技術などを改良・開発した場合に、ライセンシーに対して開示する義務を負う旨を定める規定です。
具体的には、契約期間中、ライセンシーはライセンサーの改良技術をも必要な範囲で使用する権利を付与される、ということになります。つまり、ライセンシーの権利を規定したものです。
ライセンシーとしては、本契約で許諾された「独占」的な再使用許諾権(サブライセンス権)を契約期間中ずっと効力あらしめるには、ソフトウェアの最新バージョンに関する権利を常に確保しておくことが肝要です。
そのためには、ライセンサーが新たに改良したあるいはバージョンアップした版について、これまた独占的な使用複製の権利を与えてもらっておくことが必要なのです。
また、前条の点とも関連しますが、ライセンシーが改良ソフトウェアや改良技術を開発・創作した場合、その権利を誰が使用したり複製したりすることができるのか、という問題があります。これは権利の帰属の問題ではなく、使用権の問題です。
もし完全にライセンシーが独自に開発したものである場合、権利がライセンシーのものとなったとしても、ライセンサーとしてはその使用権、複製権、実施権等を得ておくことが、以後のライセンシング政策にとって必要となります。
また、改良技術がライセンサーの保有するものとなったとしても、ライセンシーは、その技術の使用権、複製権、実施権等を得ておけば、とりあえず契約が継続している間は不自由なく事業を展開することができるわけであり、無理に著作権等を自らに帰属させずとも問題がない場合もあります。
ソフトウェアの内容、今後の状況などを考慮し、ライセンサー、ライセンシーそれぞれのメリット・デメリットを良く検討して細かく定めることが必要になる場合もあります。
(ただし、ソフトウェア・ライセンスの場合は、特許ノウハウのライセンスほど複雑にはならないでしょう。)
- 保証条項(Warranty)
ここでの保証は、ライセンサーの提供する本ソフトウェアおよびそれに含まれるプログラムや関連資料に関する権利が、ライセンサーに正当に帰属することについての保証が中心です。
ここがはっきりしないと、ライセンシーとしては、自らが許諾された権利の行使に問題がないかどうか確信を持てない訳ですから、ライセンシーとしては必ず保証してもらう必要があります。
また、販売契約的な要素として「瑕疵担保」責任についても触れておくことが多いようです。
通常ソフトウェアのライセンス契約では、ライセンサーから「仕入れる」のではなく、1本もらってそれをライセンシーが複製した上でサブライセンスしていくことになります。
しかし、最初のその1本について、隠れた瑕疵=不良・バグなどがあった場合、ライセンサーに完全なものを出させることを求めるのは、当然必要な行為となります。
そして、もしライセンサーが完全なソフトウェアを最後まで提供できない事態であれば、それは、このライセンス契約という枠組みが維持できない事態になりますので、契約解除、損害賠償へと移って行ってしまうことになります。また、ミニマム・ロイヤルティ等については返金をどうするか、という問題になっていきます。
契約が中途で解約されても、イニシャルで支払ったダウン・ペイメントについては、一切返金しない、とする場合が普通でしょうが、上記のような根本的にソフトウェア製品に問題があってビジネスの展開に支障があったような場合は、それら支払った額の払い戻しを受けることができるとすべきでしょう。
- 侵害条項(Infringement)
ライセンサーの本ソフトウェアに関する権利(知的財産権)を守ることは、ライセンサーのみならずライセンシーにとっても利益になります。
そこで、この条項では、本ソフトウェアに関する知的財産権等に関して第三者と紛争が生じたり、第三者が違法な使用を行っていたような場合には、互いに通知しあい、その被害を最小限に食い止めていきましょう、という事を規定しています。
契約条項上の体裁は、ソフトウェアや技術の開発者であり保有者であるライセンサーが、原則として紛争に関する全責任を負う旨が規定された上で、ライセンシーの協力義務が書かれることが多いようです。
ただ、ライセンサーとしては、知的財産権紛争が一体誰の責任で発生したか、ということを明確にしておき、何でもかんでも自分の責任として背負いこまないことが肝要です。
ライセンシーが改良したり他のものと組み合わせたことに起因して、知的財産権紛争が発生する場合もあります。特に「特許」については、単体では特許侵害とならずとも、他の技術や条件と組み合わせると、第三者の特許に抵触する可能性が生じます。
従って、ライセンサーとしては、どれだけ自分の責任を合理的に限定できるかがポイントとなります。