3.ソフトウェア・ライセンス契約(サブライセンス権付き)の構成とポイント−3
- ロイヤルティ条項(Royalty)
「ロイヤルティ」すなわち「実施許諾の対価」の定めです。
最初に述べた通り、この点が販売代理店契約との大きな違いということになります。
ロイヤルティには、通常、大きく分けて3通りのものがあります。
一つは、「ランニング・ロイヤルティ」というもので、ライセンシーが複製し再使用許諾(販売)した本数1本につき幾ら、という計算のもと支払われるものです。
二つ目は、「イニシャル・ペイメント」「ダウン・ペイメント(頭金)」などと呼ばれるもので、ライセンサーのこれまでの開発対価の一部補てんなどを目的として、契約当初にある程度の大きさをもった金額が支払われる場合です。
ただし、イニシャル・ペイメントの場合、それが全くランニング・ロイヤルティと別の実施許諾の対価であって、ランニング・ロイヤルティが別途必要な場合が普通ですが、イニシャル・ペイメントが「前払い実施料(Advanced
Payment)の性格、つまり「ランニング・ロイヤルティの前払い」という性格を持っている場合もありますので、よく条項を見定めることが必要です。
三つ目は、「一括払いロイヤルティ(Lump Sum Payment)」などと呼ばれるもので、ランニング・ロイヤルティなしに、契約当初に実施許諾料全額を支払ってしまうというものです。
ライセンサーが、それまでの開発費を出来るだけ早く回収することを希望する場合には、多額のイニシャル・ペイメントを要求してくる場合があります。そのような場合、ライセンシーとしては、最初にその額は払うことにするものの、その代りとしてランニング・ロイヤルティに充当できる「前払い実施料」として支払う、といった交渉も考えられるところです。
ランニング・ロイヤルティの算定については、後から揉める可能性がありますので、明確に書くことが必要です。
通常、ライセンシーが上げた利益額の一定パーセントとすることが多いのですが、その場合は、売上と認められる範囲、コストとして差し引ける範囲を細かく規定して疑義が生じないようにしておくことが肝要です。
ライセンシーがその再代理店などに対し、いわゆる「キックバック」をした場合、それをコストとして認めるかどうか、なども争点となり得ます。
ライセンシーのコストを厳密に計算するのは大変だという場合、例えばライセンシーの小売価格(売上)の一定割合をロイヤルティとしてしまうこともあります。
この場合、売上に占める利益の額に拘わらず、売上に対して一定割合のロイヤルティの支払いが生じますので、利益率の見積りという大きなリスクを背負うことになります。
簡便ではありますが、そのようなリスクを認識しておくことが必要です。
なお、当然のことではありますが、ライセンサーがライセンシーの小売価格を決定したり支配したりすることは独禁法違反の恐れが大ですので、注意すべきです。
- ミニマム・ロイヤルティ条項(Minimum Royalty)
上記のランニング・ロイヤルティに関連し、その最低額を定める場合があります。
それがこのミニマム・ロイヤルティの定めで、ライセンシーの利益額(または売上額、売上本数など)がいくらであったとしても、このミニマム・ロイヤルティ額以上の支払いを、ライセンシーが保証しなければならない、というものです。
(販売代理店契約におけるMinimum Purchaseと同様の性格です。)
ミニマム・ロイヤルティが短期のロイヤルティ期間において巨額となると、ライセンシーに大きな負担となりますし、未達成の場合に契約解除の要件とされることもありますので、詳細な検討が必要な項目です。
- 支払条項(Payment)
支払方法等に関する規定です。
イニシャル・ペイメントの支払い期日、ロイヤルティレポートの提出と支払期日などが定められることになります。
ロイヤルティレポートとは、ライセンシーのある期間(1か月とか四半期といった期間)における利益額(あるいは売上額)に基づき実際のロイヤルティ額を計算した報告書で、ライセンシーがライセンサーに提出し、ランニング・ロイヤルティ額を確定していくことになります。
ここでは、通常の支払いと同様、支払通貨を何にするか(為替リスクをだれが負うか)、振り込みにするか否か、支払期限を何時にするか、送金費用をだれが負担するかということが問題となります。
- 会計帳簿、ロイヤルティレポート条項(Accounting Books and Royalty Statement)
上記においてロイヤルティレポート、つまりある期間のロイヤルティ額を計算した報告書をライセンシーからライセンサーに提出することが通常で、ランニング・ロイヤルティはそれに基づいて決定し支払われることになります。
しかし、当該レポートが正しいかどうかは、それを見ただけではあまり良くわかりません。
実際に、ライセンシーが何本複製し、何本再使用許諾したのか、そのライセンス料(再使用許諾料、販売額といっても良い)が合計でいくらで、その営業に要した費用はいくらなのかが分からないと、ライセンシーが送付してくるロイヤルティレポートが正しいかどうかは分からないことになります。
そこで、ライセンサーとしては、必要性を感じた場合には、当該ロイヤルティレポートの正しさを検証するため、適切な会計帳簿を作成し維持保管することを、まずライセンシーに義務付けることが普通に行われています。
そして、その会計帳簿については、適宜、ライセンサーの会計士等の代理人が、ライセンシーの事務所において帳簿の検査およびコピーを取る権限がある旨がここに規定される。
なお、この監査(Audit)については、ライセンサー側からは、何時でも、事前通知なく、勝手にできる、というような条項が出されてくることが多いわけですが、ライセンシーとしては、当該監査権を飲まざるを得ないとしてもできるだけ回数(例:半期に1回を上限等)を限定し、事前通知の要求、ライセンシーの営業時間における静穏な実施などを求めていくことになります。
- 税金条項(TAX)
「ロイヤルティ」は「役務」に対する報酬という性格があるため、「源泉徴収」しないと二重課税となる可能性がありますので、源泉徴収が必要な場合についての処理方法を定める必要があります。
どういうことかというと、ロイヤルティは「役務の対価」という性格をもっており、その役務は、税務上、ライセンシーの国内で提供されたものであると捉えられているようです。
従って、ロイヤルティに対する課税権は、ライセンサーの国のほか、ライセンシーの国家も有していることになります。
しかし、双方の国でそれぞれが課税すると、課税される方から見ると「二重課税」となってしまいます。
それを避けるため、各国間で二重課税を避けるための条約が締結されており、ライセンシーの国で源泉徴収すれば、ライセンサーの国での課税が免除される、という扱いになっているのが普通です。
ただ、これは、源泉徴収すること、および源泉徴収された旨の証明書をライセンシーがライセンサーに交付することその他の条件を満たさないと適用されないため、ライセンサーとしては源泉徴収に関するあらゆる必要書類の提出義務を、ライセンシーに課しておくことが必要です。
なお、最近では、二重課税に関する条約が改正され、手続きをすればロイヤルティに対する源泉税が非課税となる扱いになっている国(米国等)が多数ありますので、事前に税務署に聞いておくことをお勧めします。