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英文契約の作成 リーガルチェック/審査・修正、翻訳の専門 寺村総合法務事務所

代表:寺村 淳(東京大学法学部卒、日本製鉄17年勤務)
Email: legal(at)eibun-keiyaku.net

英文契約の10の急所Key Point

英文契約書作成チェック寺村事務所ホーム > 参考資料目次 > 英文契約の急所10

(パソナフォーチュン様主催セミナー資料)

●急所-1 「基本命題」

<次の命題は正しいでしょうか?>

「英文契約(英文契約書)が長い理由は、

1) 英米は、成文の法律がない判例法制度を採用し、
2) また、特に米国は多民族国家なため、である。 つまり、
3) 民族的相違が少なく成文法がある国では、書く必要のない事項が多い。
4) 日本においては、民法や商法が成文法として整備されており、かつ民族的な相違が少ないため、長い契約書は不要である。
5) 従って、国際取引と国内取引の契約は、全く別物として取り扱う必要があり、要求される考え方もスキルも異なるものである。

<検 証>
確かに、英文契約のほうは、規定が長いようです。 でも、下記の和文契約に、問題はないのでしょうか?

和文契約の条項例

第X条(検査・検収)
(1)甲は、乙が納入した本製品について検査を行い、納入された日から30日以内に検査結果を乙に通知する。
(2)前項に定める検査の合格をもって本製品の検収完了とする。
(3)本製品の所有権は、本製品が甲に納入された時点で、甲に移転する。

英文契約の条項例

第Y条(検査)
(1) XXは、YYが納入した本製品を受け取った後、遅滞なく本契約に添付された別紙Aに定められた方法による検査を行うものとし、瑕疵(かし)が発見された場合には、本製品の受領後5営業日以内に、YYに対して当該瑕疵について、書面により通知しなければならない。
(2) XXが、前項に定める期間内に、YYに対して当該瑕疵について書面で通知をしなかった場合、XXは、YYから受領した本製品を異議なく受領したものと看做され、その後、当該瑕疵の存在を理由とした、YYに対するいかなる請求をする権利をも放棄したものと看做される。但し、上記に拘らず、第1項に定められた検査によっては、直ちに発見できない瑕疵(以下「隠れた瑕疵」という。)については、この限りではない。
(3) 前項但書きに定める「隠れた瑕疵」について、YYは、XXに対し、本契約の下記に定められた瑕疵担保責任を負うものとする。XXが当該瑕疵担保責任を追及するためには、瑕疵のある当該本製品を受領した時点から、12か月の期間内にこれを行使しなければならず、且つ、当該権利行使は、瑕疵の存在を具体的に指摘した書面による通知を、当該瑕疵を発見してから直ちに、YYに対して行わなければならないものとする。
(4)「本製品」に関する所有権および当該商品の滅失・毀損についての危険負担は、本条に定める検査をXXが行うか否かに拘らず、「本製品」がYYからXXに対して引き渡された時点で、すべてYYからXXに移転するものとする。

<基本命題>
「英文契約は、多民族国家・合衆国・判例法主義という歴史的背景により、昔から契約に、要件と効果を漏れなく記載する傾向にあるが、その基本的な考え方は、徹底したリスク管理の思想である。
このような契約を作っていくことは、ビジネスを少しでも有利に(不利にならないように)進め、予測可能性を少しでも高めるための<国の如何、成文法主義如何に拘らない>必須の技術である。」と考えています。


●急所-2 「制定法があるのに、契約で詳しく書くことの意味」

国際取引においても、国内取引においても、民商法などの法律ですべてが妥当に解決するわけではありません。
そこには、必ず、規定がない部分があります。
また、法律の定めが妥当な結果をもたらすとは限りません。
時代遅れだったり、法律が想定している事例と現実とがうまくマッチしなかったりすることがよくあります。
したがって、経営上のリスク回避として、予測可能性を高めるためには、法律や条約、判例などによって解釈される余地を出来るだけ狭め、契約の上で、出来るだけあらゆる事態が予測できるように、規定されていることが望ましいと言えます。
つまり、妥当でない任意規定を排除したり、法律で欠けている部分を補うことが、契約には求められます。

●任意規定の排除 および
                        --→ ビジネスにおける予測可能性の向上
●任意規定の欠落部分の補充               =リスク管理の徹底(国内取引においても妥当)


●急所-3 国際取引における特殊性:準拠法の問題

●国際取引契約の最大の特徴は、準拠法が決まらない、ということ。
●裁判になってみないと、どこの国の法律や条約が適用になるのか、予測可能性が低い。→だから、より詳細にならざるを得ない。

●急所-4 任意規定の排除(例)

<例>

○所有権の移転
 民法:売買契約の締結時点で、買主に移転する。
  →企業間取引では、通常代金は後払い。所有権だけ移ってしまって良いのか?
○危険負担
 民法:契約後、建物が火事で焼けたら買主が負担(代金を払う必要あり)。
  →まだ建物が買主に引き渡されていない場合、公平だろうか?
○瑕疵担保責任
  民法:瑕疵があった場合、解除と損害賠償ができる。
   →修理や代品交換義務については規定されていないが、それで良いのか?
○期限の利益の喪失
  (期限の利益とは期限が来るまで債務を履行しなくて良いという利益)
 民法:破産手続きが開始されたら喪失する。
  →不渡りを出しても、法的な破産手続が開始されるわけではない。

●急所-5 任意規定の欠落部分の補充
○イニシャルペイメント(ライセンスを受けるとき最初に払う金銭)
  特に定めた法律はない。また、商慣習もない。
  →では、ランニングロイヤリティーに充当されるのか(?)
  →契約で定めるべき。

○検 収(上記の和文の契約条項例を参照)
  特に定めた法律はない。商慣習も一義的とはいい難い。
  →検収がされたことに対する効果が何か、が不明確
  →契約で定めるべき。

○独占的ライセンス
  独占的といっても、許諾者自らの実施(販売)ができなくなるとは限らない。
    (特許法にいう、「専用実施権」とは違う場合がある)
  →契約で明確にする必要あり。


※ そうは言っても、英文契約に特有の知識も多少は必要。

●急所-6 Letter of Intent (レターオブインテント)(予備的合意)
 予備的だから効力がない訳ではない。
  →予備的合意に従った本契約を締結しなければ、賠償問題になる。
  また、予備的合意事項を変更することには、困難が伴うので、要注意。

●急所-7 仲裁手続き、裁判管轄、準拠法
○仲裁手続き Arbitration
  多くは、裁判にはしないで、仲裁条項を入れることが多い
  →第一に、仲裁条約に基づく相手国での「執行可能性」を確保するために、国際契約では仲裁条項を採用することが多い。
  (ある国での判決を他国で執行することは、各国の主権の問題があり、簡単ではないが、
  仲裁は、「仲裁条約」という国家間の合意が既にあり、条約締結国間においては、ある国の仲裁判断は他国で尊重され、
   強制執行が可能である場合が普通。)
  →さらに迅速性と予測可能性を担保。

○「準拠法と裁判管轄」Governing Law & Jurisdiction 
  準拠法(どの国(州)の法律に従うか)の問題と、どこで裁判(仲裁)するか、は別問題。
  →どちらも、予測可能性を高めるために、規定しておくべき。

●急所-8 債権回収リスクの回避
  日本国内でさえ債権回収は難しい。ましてや外国企業からどう取り立てるか?
  →不払いのことを想定するのではなく、不払いにならないような予防策を規定しておく。
 <例> 担保や保証金の取得、前渡金(プリペイメントと債務への充当)、解除の簡易化。L/C、手形 など

●急所-9 インコタームズ (INCOTERMS)(貿易条件)
 FOB、CIFなどの単語が定義なく使われる場合があるが、国によって内容が異なる。
  →国際商業会議所(ICC)が制定した規約に基づく「貿易条件」とすべき。
   「2010年に制定のインコタームズに定められたFOB、CIFなどに従う」という規定のされ方をする
    (契約中には細かい条件がかかれない場合が多い)

 →次の3つがよく利用される。
  例:FOB :本船渡。売主の責任は船積港での船積みまで。海上運賃は買主負担。滞船料は買主負担
    CIF  :運賃保険料込渡。船積港から目的地までの運賃、保険料を売主が負担。
    C&F : FOBとCIFの中間、海上運賃は売主負担、保険料買主負担。

●急所-10 若干の特殊な用語
○「Shall と May」
  shall 「しなければならない」 (= must) > should > will
     (日本文では全部「ねばならない」)
  may 「することが出来る」

○「Agent と Distributor」
 どちらも日本だと「代理店」と訳されることが多いが、Distributorは代理人ではないことが多い (単なる販売店)。しかし、一義的に明確になっている訳ではない。
   →契約でその権限や取引の態様について、取り決めておくべき。

○「不可抗力免責」
 書いていないと不可抗力による免責を受けられないことがある。
 また、不可抗力事由が何かは、一義的に定まっているわけではない。
  →例示して、認識に齟齬がないか確認することが肝要。

○「完全合意」
  書いていれば、口頭証拠が排除される(書いていないと排除されない場合がある)。

●最後に

私は、次のように考えております。

 「契約の締結のために最も要求されるのは、リーガルマインドではなく、<ビジネスマインド>である、良い契約を締結しうるのは、法律専門家ではなく、ビジネスを最もよく理解しリスクをイメージできる、<経営者・契約当事者>である」